記憶の科学‐忘れる・思い出すのメカニズム|心理学検定 A領域(原理・研究法・歴史)

前回は条件付けから始まる、行動心理学についてまとめました。

行動に注目する流れで生まれた、「認知」に注目する心理学についてまとめていきます。

今回の主役は「記憶」です。

私達の感情は脳で生まれますが、感情の起こりと深い関係があるのも記憶。

良い記憶に近い出来事は、良い体験であると認識しやすく。

悪い記憶に近い出来事は、悪い体験であると認識しやすくなります。

このメカニズムについて、心理学検定の内容に基づき。

できるだけ簡単にまとめていきます。

詳しく知る入口になったらなと思ってますので、深く知りたくなったら心理学検定公式の「基本キーワード」や心理学の書籍を開いてみてください。

とても身近な記憶の科学

このブログでも、以前に記憶について扱った記事を書いたことがあります。

この記事のテーマの通り、記憶つまり覚えることが求められることは多くあります。

また、その記憶をテストなどで試されることも。

私達は、記憶により行動を選択したり、物事を判断したりします。

なので非常に身近なテーマでもあり、興味を持ったことがある方も多いと思います。

心理学においてどのように扱われ研究されてきたのか。

見ていきましょう。

記憶は「段階」で考えられていた

記憶や思考など、物事を頭の中で扱い、理解する働きを認知と言います。

1950年代のコンピューター開発により、認知心理学が誕生しました。

・情報処理の考え方➾頭の中の働き
・人工知能(AI)の研究➾知の解明

というように、認知の働きと関連が深い内容であったこともあり、研究が進められたのです。

なので、記憶についてもパソコンやネットワークについて詳しい方は、どの仕組みがどの認知の仕組みに当てはまるかを考えると、理解しやすいかもしれません。

パソコンにおいて、記憶に使用するのは、HDDやSSDといったものとメモリです。

メモリは処理に使用する一時的な記憶領域で、HDDやSSDはデータを保存し必要に応じて取り出します。

心理学の記憶においても同様の機能があり、感覚記憶➾短期記憶➾長期記憶という段階があり「多重貯蔵モデル」と呼ばれます。

まずは、刺激や情報を感覚記憶で受け取ります。

これは保存などをする前の情報の受け取りなので・・・パソコンで考えると入力フォームとか、エクセルのセルといったところでしょうか。

この時に注意という、情報に集中する働きが生じ、短期記憶へと移ります。

短期記憶は名前の通り、保持期間の短い忘れやすい記憶です。

これはパソコンのメモリに当たる機能ですね。

短期記憶の内容を忘れにくくするためには、「維持リハーサル」という単純な繰り返しを行えます。

漢字や英単語を一生懸命繰り返すのに似ていますが。

あまり使う機会がないと、忘れていきます。

これが、短期記憶です。テスト前日の一夜漬けも、短期記憶にしか残らないため忘れていくわけです。

忘れずにいるためには、長期記憶に移さなければなりません。

これが、パソコンでいうHDDやSSDに当たります。

すでに知っていることやイメージと、短期記憶の内容を結びつける「精緻化リハーサル」を行うことで。

短期記憶から長期記憶に移ります。

そうなると、記憶の中に残り思い出しやすくなります。

英語の暗記方法として、文脈で覚えるとか、どんな勉強環境だったかなどから考えると、おもいだしやすくなるとか。

そういった関連付けの方法は、短期記憶から長期記憶に移す手段といえます。

この段階が、心理学で記憶を考える場合の基本です。

ワーキングメモリという考え方

短期記憶は、記憶の保持期間についての定義と言えますが。

短期間の記憶の保持に認知的な処理を加えた概念を、ワーキングメモリ(作業記憶)と呼びます。

ワーキングメモリは、以下の要素で構成されるとされます。

・音韻ループ:聴覚的な情報を繰り返して維持する(言語など)
・視空間的スケチパッド:視覚や空間的な情報の維持
・エピソードバッファ:長期記憶からの想起内容を扱う
・中央実行系:上記3つを制御する

作業や動作のために使用する記憶ということですね。

私達がなにかの作業や行動を行う場合。

聞いたり見たりしたことや、以前に経験したことなどの長期記憶の内容を引き出して実行・修正します。

作業効率を上げるテーマなどでよく目にする言葉でもあるので、身近なものかもしれません。

考えたり、理解する時に重要な記憶の機能といえます。

長期記憶の分類

私達の行動や感情に影響を与えるのが長期記憶ですが。

私達が「覚えた」と意識しているものと、無意識のうちに「覚えた」ものがあります。

無意識なものを「潜在記憶」といいます。

運動など経験の記憶があるものの、思い出している記憶の無いものがこれに当たります。

何かの運動をする時に、考えてから動くというのでは動作が間に合わない場合もありますが。

記憶や経験がなければ対応することができない。そんな記憶ですね。

「覚えている」という認識をする記憶が「エピソード記憶」です。

人生のある時、ある場所で経験した特定の物事として、思い出すことができる記憶です。

思い出そうとして思い出すもので、「精緻化リハーサル」により長期記憶に移った記憶とも言えます。

意識的に思い出すものとしては一番身近なものかもしれませんね。

深く考えたことを良く覚えていたり(処理水準効果)。

自分に係ることの方が、そうではないことよりも良く覚えている(自己関連付け効果)。

環境や気分が同じ方が思い出しやすい(気分状態依存効果)。

といったような、私達が普段覚えるために実行していることではないでしょうか?

これらの記憶は、一定期間を置いて繰り返す「分散学習」により定着すると言われますが。

文脈が失われて内容のみとなった記憶を「意味記憶」といいます。

言葉で考えるとわかりやすいですが、「暑い」という言葉を聞くと「夏」や「海」という言葉を連想します。

元々は「夏は暑いし、海に入りたくなる」という文脈で覚えたものが、単語単位で記憶され。

その単語が持つ意味で記憶されている「連想ネットワークモデル」という、記憶のネットワークを形成します。

このように、一口に「覚えておきたい重要な記憶」と言っても。

その覚えるための処理にいくつかあり、忘れないようにできています。

思い出すということ

ワーキングメモリのところで書きましたが、私たちは記憶を思い出し活用することで何かしらの判断や行動を行っています。

例えば、文章を理解するには、文字を読めなければなりません。

50音を覚え、形態素(意味をなす最小の単語)で区切りを覚え、単語とその意味を覚えることで、文章を読み理解できるようになります。

このような処理を、ボトムアップ処理といいます。

逆に、日本語の文章の読み方のように、文章の流れによって読み方が変わるものもあります。

私達日本人は自然とその処理を行っていますが、あまり他の言語にはないものなので、話題に上がることがありますね。

このような処理、つまり、文の意味に合わせて個々の文字の認識を調整する処理を、トップダウン処理といいます。

この2つの処理を組み合わせることで、複雑な思考や論理的な思考をおこなっているわけです。

また、視覚や聴覚による記憶についても書きましたが、それによりイメージが出来上がります。

視覚効果を利用する方が印象に残りやすく覚えやすいのもありますし。

それを利用して、単純接触効果を高めることで印象に残し、マーケティングにつなげるということもあります。

これらは、人間の記憶の働きを利用し、無意識のうちに思い出させるための効果とも言えます。

私達は意識的にも無意識でも、思い出すことによって様々な感情を呼び起こし、行動をおこしているのです。

記憶は心理学のハブ

記憶は認知心理学で扱われる内容となりますが、学習心理学や臨床心理学などの心理学の他の分野だけでなく、AIの研究や情報処理の研究といった、科学や工学ともつながります。

刺激に対して重要な情報であると注意を向けることが記憶の始まりであり。

その記憶を思い出し扱うことで、思考へとつながり。

思考したものを利用して、問題解決を行っているのが私達です。

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著者プロフィール
ぽんぞう@勉強中

はじめまして、「ぽんぞう@勉強中」です。
小企業に一人情報部員として働いている40代のおじさんです。IT技術での課題解決を仕事にしていますが、それだけでは解決できない問題にも直面。テクノロジーと心の両面から寄り添えるブログでありたいと、日々運営しています。詳しくはプロフィールページへ!