睡眠の科学 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか(著者:櫻井 武)|「成長」のために睡眠をとろう

学生の頃に、「睡眠欲と食欲どちらをとるか?」という話題で盛り上がったことがあります。

私は睡眠欲を選びましたが、食欲を選ぶ友人が多かった記憶です。

それが今では、睡眠時間を削って物事を進めるように人間となってしまい。

よく食べるようになりましたw

なので、肥えた身体を絞るために運動をするようになりましたが。

「運動の効果を高めるために、睡眠はちゃんととりましょう!」

ということを耳にします。

なんで?という疑問とともに、なんとなく削ってしまう睡眠時間。

しかし、年を取ると削れなくなるのも睡眠時間。

何が起きているのか気になりましたので。

睡眠について学んでみようと、本書「睡眠の科学」を手に取ってみるのでした。

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睡眠の効果にびっくり

睡眠というと、テレビ番組の出演で柳沢教授のイメージが個人的に強いのですが。

本書の著者の櫻井武教授は、柳沢教授と共にオレキシンを発見した、睡眠研究の第一人者の方です。

本書の中でもオレキシンについて取り上げられ。

仕組みだけでなく、発表の経緯についても書かれているのが面白いところでした。

研究の世界も競争があるんだなぁと、のんきな感想を持ったのが私です。

いつもどおり細かい話は本書におまかせし、自分が興味を持ったところを書いていきます。

オレキシンの仕組みや働きについて興味のある方は、ぜひ本書をお読みください。

シーソーに例えてわかりやすく解説されています。

で。

睡眠素人(寝るだけなら玄人)の私でも、レム睡眠やノンレム睡眠という言葉は知っています。

脳波が違って、睡眠の質が違うという程度の内容もしっています。

その違いについて本書の最初の方では。

レム睡眠には独自の恒常性を保つメカニズムがあり、「ノンレム睡眠の隙間を埋める」という以上のなんらかの重要な生理機能を持っていることが推測される。

<中略>

記憶の固定や整理にはノンレム睡眠が大きく関わっていることがわかってきた。

第1章 なぜ眠るのか P.31

と、書かれています。

この後の本書の流れも、基本的にはレム睡眠とノンレム睡眠の働きを中心に説明され。

それを元に副題である「なぜ眠るのか」「なぜ目覚めるのか」という問いに、研究に基づく櫻井教授の考えが書かれています。

本書によると、睡眠の役割は主に「脳のメンテナンス」とのことです。

まずは、ノンレム睡眠についての仮説は。

ノンレム睡眠を必要としているのは、主に大脳皮質出会う可能性が高い。
<中略>
脳はノンレム睡眠のときに情報の収集を停止することによって、シナプスの新生を避け、その状態でシナプスの最適化を行っているのだろう。
この仮説は、睡眠が精神の健康を保ち、記憶を強化することを説明できる。さらに、脳内の細胞内に溜まった有害な老廃物の除去は、<中略>主にノンレム睡眠中に起こるとされる。<中略>情報の整理とともに、情報処理環境の整備も行われており、脳の機能を正常に保っているのだと思われる。

終章 なぜ眠るのかー私の仮説 P.234〜236

本書の冒頭の方でも、身体の恒常性を保つために視床下部に働きかける、重要な生理機能を持つ行動として、睡眠があげられています。

新しい情報が増えない状態で、それまでに得た情報の整理を行い。

それが過度なストレスとならないようにし、健全な精神の維持が行われているのではないか?

というのがこの仮説ですね。

個人的には、老廃物の除去(本書で「グリンパティックシステム」として紹介されています。)というのを知らなかったので、最初の「寝ないとだめだなぁ」と思いました。

仕事をする時とかも、仕事道具や作業範囲を整えないと仕事がしにくいのと同じ状況と言えるかなと。

仕事はできるとしても、効率は落ちます。

脳の働きを最大限に活かすためにも、老廃物を流すことの大切さを理解できました。

続いて、レム睡眠。

レム睡眠時に大脳辺縁系が活発に働いているのは、記憶の重要性に重みづけをしているのではないだろうか。
もともと大脳辺縁系の情動システムは、情報にどれだけの重要性があるかを判断するシステムであると言ってよい。
<中略>
その機能は、記憶自体の固定というよりも、ここで述べたような記憶に対する重み付けや、取り出しやすさに関わる機能であろうと創造される。
そして、おそらく同時に、視床下部の恒常性機能のメンテナンス(おそらくセットポイントの校正)も、レム睡眠のときに行われる。

終章 なぜ眠るのかー私の仮説 P.236〜237

処理した情報の整理を行うのが、レム睡眠にあるのではないか?ということです。

私達の記憶は感情と密接な関係があり、感情を生む扁桃体が脳の大脳辺縁系にあります。

特に生命の危機と感じる「恐れ」に敏感に反応するようですが、生きるための重要な感情の一つです。

その感情を元に情報の重要さを決めて整理し。

それを、ある意味思い出している間、身体に変調を来さないように睡眠時に行われているのかなと。

そのように整理された状態で、正常な反応となるように恒常性機能がメンテされるのであろうと。

そんなことを思いました。

レム睡眠やノンレム睡眠の言葉をなんとなく知っていたように、睡眠についてもなんとなく知った気になっていた私ですが。

驚くべき仕組みが多く、「こりゃ寝ないとだめだな」と思わせてくれる内容が続きます。

「寝るのにも体力がいる」ということが言われますが、エネルギーを消費しないはずがないと。

生きるのに必要すぎて、削っていた自分の愚かさに肝が冷えました。

これも眠っている間に処理されているでしょう。

起きている方が異常?

睡眠の役割が大きすぎて衝撃を受けた私ですが。

眠っていると怠けているとか、やる気がないと言われてしまいます。

最近身の回りであった話だと、「責任感がないからだ」と言われた人もいます。

眠っていると活動していないわけで、そのように見えるのはしょうがないとも言えますし。

大切な時に常に眠っているわけにはいきません。

「なぜ目覚めるのか」の副題のとおり、本書では覚醒についても扱われます。

ヒトを含む動物は、何かに注意を向けるために、そしてなんらかの行動(アクション)を起こすために、覚醒しているのだ。

第5章 オレキシンが明かした「覚醒」の意味 P.134

当然と思っていることは見過ごしやすいですが、私達が起きている意味は引用箇所の通りです。

現代の情報社会で考えると、起きていなければ情報に注意を向けたり、その情報に基づいた行動を取ることはできません。

災害情報など、身を守るために有効な情報を取り入れなければ、生命の危険となる可能性もあります。

生物として考えれば、本書で書かれている通り「食べる」という行動が一番生命に関わります。

食物を食べてエネルギーを得なければ、生きていくことはできません。

そして、お腹が満たされると、眠たくなります・・・血糖値スパイクもあるかもしれませんが。

生命を維持するのに必要なエネルギーを得て、安全な環境になると休息を身体が求めるわけです。

こうした睡眠と覚醒の関係をみていると、極論すれば、動物やヒトにとっては「睡眠をとっている」状態こそがデフォルトであり、特別に必要なとき(つまり注意や行動が必要なとき)に、「無理して」起きているのだという考え方もなりたつ。

第5章 オレキシンが明かした「覚醒」の意味 P.135

この働きを説明できるのが、オレキシンの働きとのことで。

ざっくりとした理解ですが、基本的には眠る方向にベクトルが向いていて、それを覚醒の方向に引張る力がオレキシンにある、という感じです。

つまり、常に注意を向けたり情報を集めなければならない(気がする)、現代で求められる状態の方が生物的には異常であることが分かります。

もちろん、現在の人間にとっての食べる行動は、働いて稼ぎを得て食物を手に入れることなので。

寝てばかりはいられないのもそのとおりです。

しかし、眠れないほど働くことで、心身に異常が出るのも当然なんだなとも思いました。

生産性や法律の規定などもありますが。

「人として」過重労働を求めるべきではないなとも感じます。

睡眠と記憶のメカニズムから思ったこと

私自身の勉強の一環として、脳の記憶のメカニズムの基本についてまとめた記事があります。

睡眠は脳のメンテナンスのための機能で、記憶にも関わるということを引用してここまで書いてきました。

本書はコラムの内容も非常に興味深く、考えさせられるものが多い中で。

「海馬」についてのコラムに興味をひかれました。

作業記憶の機能は海馬ではなく、前頭葉にある。
<中略>
長期記憶は、大脳皮質のいろいろな部分に分散して蓄えられていると考えられている。それらを前頭葉に引き出してきて使うわけである。
<中略>
海馬は、いろいろな経験や感覚を長期記憶として蓄えられるかたちに変換している<中略>そして数年間ぐらいの間に、大脳皮質のほうにメモリーを移していくのである。

COLUMN⑪大脳辺縁系③海馬 P.164

「継続は力なり」と、何かを続けることの大事さについて触れられることは良くあります。

また、成功者の特徴のようなもので、「つまらないことを続けること」ということが言われたりします。

何かを続けたその経験が長期記憶となり。

考えなくとも行動に移すことができる習慣になるのだなと。

さきほども書きましたが、記憶によって生き残る可能性を高めているのが生物です。

人間は脳を進化させることで、様々な状況に対応できる力を持つようになりました。

その根本的な機能の入口となる器官が、海馬であるといえるかもしれません。

記憶は睡眠によって固定・整理されます。

何かを続けて、眠るということを繰り返すことで、エキスパートになっていく。

人間の生存を守る意味を持つ機能が、ここにもあったんですね。

身体の成長だけではない

「寝る子は育つ」とも言われるように、成長に睡眠は欠かせません。

睡眠による成長は、身体だけではなく脳も成長させ。

言いすぎかもしれませんが、人としても成長させてくれる機能なのではないか。

そんな事を本書を読んで思いました。

コラムもそうですが、睡眠に関するQ&Aのパートも面白い内容です。

「寝るのがもったいない!」と感じている人には、一度読んでもらいたい本ですね。

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著者プロフィール
ぽんぞう@勉強中

はじめまして、「ぽんぞう@勉強中」です。
小企業に一人情報部員として働いている40代のおじさんです。IT技術での課題解決を仕事にしていますが、それだけでは解決できない問題にも直面。テクノロジーと心の両面から寄り添えるブログでありたいと、日々運営しています。詳しくはプロフィールページへ!