【読書記録】22世紀の資本主義(著者:成田悠輔)|情報革命の本番はこれから

最近はあまり追わなくなりましたが、この本は読もうと思ってました。

成田さんの「22世紀の資本主義」です。

本書は「22世紀の民主主義」の姉妹本という立ち位置のようです。

このブログでも「22世紀の民主主義」のレビューを投稿しております。

正直、そんなに早く読み終わる気もなかったんですがー。

読み始めたら、一気に読んでおいた方が良いなと感じ。

読み終わった勢いのままこの記事を書いています。

「民主主義」が発売されてから「資本主義」の発売までに起きた、インターネット技術の発展に基づいて、資本主義がどのように変化していくのか。

成田さんは「ユートピア」ではなく「まもなく起こること」として、予測しています。

データ化する資本主義

本書の帯で、髪を逆立てた成田さんとともに印字されている文字が。

やがて
お金は
絶滅する

そんな未来を
私たちは
生き延びられるか?

22世紀の資本主義 帯より

というものです。「民主主義」もセンセーショナルな言葉が印字されましたが。

ブックカバーのも赤中心で、攻撃的な見た目をしております。

成田さんはアルゴリズムを使ったビジネスや公共政策のデザインをしている経済学者です。

アルゴリズムという言葉からも分かるとおり、プログラムや先進技術の知識もある方でもあります。

メディアに出演されていることもあり、嫌でもそういった情報が入ってくるというのもあるかもしれませんが。

本書では、資本主義がどのように変化していき、それとともに指標であるお金が無くなる未来を予測しています。

なので、帯に書かれている「そんな未来」とは、お金が無くなるように変化した資本主義社会の状態のことであると分かります。

資本主義は個人や企業が利潤を追求していく社会体制ですが、本書の定義を見てみましょう。

変幻自在に中身を変化させながら有象無象の有形無形な未開拓領域を商品にして稼いでいく運動をざっくり「資本主義」と呼ぶ。

第1章 暴走 P.59

「ざっくり」とは書いてありますが、個人の自由な経済活動を是とする社会体制でもあるので。

そこまでおかしい表現ではないと思います。

「有象無象」でも「有形無形」でも、価値や興味を感じる人がいれば、売る価値があるものということになりますしね。

そして、価値を表すものがお金です。

お金によって、商品を手に入れるための指標得たり。

その提供される価値が、提供される商品に対して見合っているか、高いか低いかを判断する指針ともなっています。

さらに、モノや商品の値段を測るだけでなく、年収やGDPなどの力を測る指標ともなっています。

そのようなお金の新しい形が、ブロックチェーン技術を元に発行されている暗号資産です。

暗号資産はお金の新しいカタチであるだけでなく、今までお金に表せなかった、情報・物事・心身といった価値もお金に近い形で表現することができます。

なので、商品もお金もすべてがデータ化される未来がまっているというわけです。

すでに価値を認められていて、値段がついている暗号資産ですが。

この結果、あらゆるものが経済取引の対象となり、価値の多様化をもたらすようになっています。

単なるデータの羅列に過ぎないものが、価値を持っているのです。

今現在に対する不安(明日死ぬかもしれない状態)が薄い現代の特徴でもあるのかもしれませんが。

現代では暗号資産を始め、良くわからない未来という幻想ですら商品になっているわけです。

・・・と、強い言葉になってしまいましたが、「かもしれない」に対してお金をかける時代とも言えるかもしれません。

「投資とはそういうものでは?」とも一瞬考えましたが、裏付けがないのが違うなと。

チェーンソーを買えば大木を切れるかもしれないというのは、ほぼ確実な投資です。

チェーンソーかノコギリかはわからないけど、大木を切れるかもしれないというのは、投資ではなく投機です。

この後者のようなものに対して、価値を提示し保証してしまう暗号資産や評判というものが出回り、信じられやすくなっているという状態でしょうか。

インターネットがもたらした資本主義の変化は、すべてをデータ化し、価値と経済取引の多様化をもたらす。

ではその価値とは何なのか?ということになりますかね。

お金と価値の多様化

資本主義の中心に位置するもの。利潤の指標となるものが、お金です。

元々は台帳に記録された経済活動がお金の役割を果たしていましたが。

経済活動が大規模化し複雑化するこちとで、お金が利用されるようになったのではないか?と書かれています。

つまり、お金という共通の価値を表すモノを利用することで、経済実態を保存する便利な手段として使われていたわけです。

しかし、今では暗号資産を始め、〇〇Payの乱立のように。

お金以外で取引をする方法が増えるとともに、情報技術により記録も簡単にできるようになりました。

キャッシュレス決済が一般化している今、お金自体よりもお金を表す数字データの方が価値を感じる方も多い・・・というか、当たり前なので価値という感覚もないかもしれないですね。

なので、お金のもう一つの機能である、価値を測るという側面が強くなっていると思います。

実際の札束の量を見るのではなく、数字として付けられる値段でモノや人を測るというものです。

そして、数字の大小で善悪を判断している場合も。

しかしここにデータ化された個人の価値観、購買履歴や利用状況などの経済活動のデータが利用されることで。

値段が個別最適化されるのではないかと。

「ではないか」というよりも、実際に一部のECサイトでは実装されているみたいですね。

その結果比較の意味がなくなり、お金で表される数字データの大小が意味をなさなくなると。

さらに、暗号資産などお金に変わる価値を表すものを、個人が発行できるようになり。

お金を発行する国家の力が弱くなり、発行主体が強くなるとともに、社会保障の機能も持つようになっていく。

その結果、お金がなくなると。

無くなるというよりも、国家や力関係で価値が評価されるお金への依存が少なくなるということなのではないかなとは思いますが。

円やドルといった分かりやすい概念としては、残るんじゃないかなぁと。

キロやリットルといった、共通概念としての単位として・・・ですが。

便利ですからね。単位。

経済の爆発

で、言われてみればと思ったのが。

第一次・第二次産業革命の前後で経済的な生産性が誰の目にも明らかなほど伸びたことと比べ、IT・ウェブ産業が世界を食べたこの数十年は産業革命と呼ぶには程遠い。

<中略>

ウェブが家庭や職場に浸透しても、人類の経済的生産性には何の爆発も起きていない。

第1章 暴走 P.92

手作業で行っていたものが自動化・データ化され、効率化されたとは言え、置き換えられたレベルかなと。

実感として思います。

その置き換えの結果が、経済的生産性に結びつく活動ではない方向に動いているだけだとも思いますが。

時間を価値と考えれば、労働の時間が減り、他のいわゆる人間らしい活動に使えるようになり。

少ない時間で同じ金額を稼ぐことができることが、消費への循環に変わっていると捉えることもできなくはないですがー。

それでも、産業革命ほどの生活の変化はないかもしれません。

外側ではなく、内側が変わるような革命ではあるので。

変化を実感すること自体が難しいかもしれませんね。

それが、AIの進化により実生活に直接的な影響を与えるようになったことで。

これからが本当の変化となる可能性は高いでしょう。

本書によると、それはすべてが資本主義になり、お金が無くなり、価格の代わりに個人のスタイルによる変化の先にあると、予測されています。

様々なモノが価値を持ち、商品化されるようになるとは言え。

人間の労働に対する価値観というものが変わらない限り、大きな変化は起きないということでしょう。

ただそれぞれの人がそこにあるがままにあるための仕組みが測れない経済である。

第3章 構想 P.233

「そこにあるがままにある」という状態を受けいられる人が今の状態ではいないというのが、実質的な産業革命に至っていない原因なのでしょう。

それが、お金という測るための指標があり。

社会への貢献や価値のある行動や仕事をしているかどうかを測るものが蔓延していると。

そのため、周囲の評価を気にするあまり、実は生み出している価値というものや、生み出す可能性が高い価値が殺されている状況もあり得るんだと思います。

それをすくい上げるには、この「測る」指標がなくなり、ブロックチェーンの文脈のように、本来の価値を自分の元に戻すという。

そのような流れが必要なんだろうなと思います。

分散化された社会というものが、資産を越えた個人の自尊心の領域にまで来るとは思っていなかったので、ハッとしたところでもあります。

安心、安全で、自己実現可能・・・かどうかは分かりませんが。

少なくとも、多様化とはこういうことなんだろうなと思います。

できることはなんだろう?

我ながら何の感想なのか分からない文章になってしまった気はしますがー。

インターネット技術の発展の当然の帰結として、WEB3やAIというものが発生していて。

すべてがデータとなり技術を活用することにより、従わざるを得なかった社会システムから開放され。

意識としても解放されるという世界が来るという事のようです。

本書でも書かれていますが、ウェブは壮大な無駄も生んでいて、今はその消費に追われているのが現状です。

正直、カオスな世界の風景が浮かんでしまい、伝統的な経済学が前提とする合理的な経済人を信じるようなところも見受けましたが。

ロジャーズのように、人間は改善する意識を元々持っているという意識も持たないとなとも思いました。

じゃあ、実際にどうするかというと・・・自分を楽にするなら、現在の技術の発展を楽しむようにするということでしょうかね。

どのようなものがデータ化され、利用されるのかをしっかり把握し、選択する。

今から、自分の価値観に従った選択をする事を心がけるということでしょうか。

体制の変化なので、知らないうちに身につくものでもあるとは思いますがー。

少なくとも、より自立した価値観により、自分と他人を認めるようにする訓練が必要な気がします。

結局優しい

成田さんはデザインをする方なので。

言葉の鋭さはありますが、発信する事は基本的には優しいなと思います。

アメリカでも生きづらいからどうしようみたいなことが、本書内でも出てきて笑いましたが。

自分自身が生きにくさを感じる社会に対し、自分以上に生きにくさを抱えている人たちもいるということを知っていて。

そのためのデザインが、「民主主義」という政治に続き「資本主義」という経済に至ったのかなと思います。

成田さんが見つけるであろう「◯▢主義」が楽しみになりました。