「聴く」ことで信用を築く‐傾聴とは何か?

コミュニケーションの大切さは、様々なところで言われています。

メンタルヘルス・マネジメント検定試験Ⅱ種の記事でも、コミュニケーションについて扱いました

実際に「コミュニケーションを取ろう!」と言われて、思い浮かぶのは「会話」だと思います。

良いコミュニケーションを取ろうと考えた時に、何をどう伝えるかという「話す」行為に意識が向いてしまうかもしれません。

「良いコミュニケーションが取れた!」とか「良い話し合いができた!」と思う時のことを考えてみると。

①自分の思いを話せた。(自分の伝えたいことを話せた)
②話したことを受け入れてもらえたと「感じた」

という2つによると思います。そしてこれが揃うと、相手を信用するきっかけとなります。

つまり、相手との信頼関係を築き良い関係を作ろうと思ったら、「話す」こと以上に相手の話を「聴く」ことが大切です。

その聴くスキルである「傾聴」について。

聴くことを仕事にしている、カウンセラーに求められることを参考に書いて行きます。

なぜ「傾聴」が必要なのか

メンタルヘルス対策や心理的安全性の構築などで、「傾聴」というスキルが必要であるとされます。

部下の状態を知るために「聴き」、チームの成長や成果の達成のために「聴き」ます。

その時の文脈で語られるのが、「積極的傾聴」という言葉です。

これは、

・相手の話すことをただ単に聞くのではなく、内容を正確に把握するために聴く
・話を聞いてもらえることで、受け入れてもらえている感覚を提供し、話しやすい環境を作る

ということを実現する行動を意味します。

コミュニケーションの悩みは職場で多いかもしれませんが、相談を元に適切な解決策を導いたり。

各々が持っている良いものを見出し、チームに取り入れようとする場合、内容を正しく把握しなければ実際に機能させるとはできないでしょう。

内容を把握するために、積極的に質問しようとするために聴くのではありません。

聴く側=傾聴を実践する側は、

・自分自身の気持ちや感情を理解して、切り離す
・自分とは違う考え方や価値観だとしても、相手の枠組みに身を置く
・相手の話す内容を、相手が感じるように感じ、理解する

という、相手の話すことに関心を持ち、相手の感情までを理解するために聴くようにします。

その上で、相手が求めていることやその背後までも理解しするように務めた上で、相手に対して返答を「話し」ます。

このように、まずは相手を受け止めるための行為が「傾聴」です。

私も経験がありますが、コミュニケーションに対して不満を持ったり、嫌な感じを受けるのは。

話を聞いていもらえていない時、または、話を聞いてもらえないと「感じる」時です。

このような印象を与える相手が、どんなに親身であろうと、素直な気持ちでアドバイスや指示を受け取れないと感じませんか?

もちろん、自分の中での相手に対する印象というのも関係してきますが。

良い印象を相手に持っていて、さらに自分の話を聴き、受け止めてもらえたと感じるなら。

前向きな気持で、アドバイスや指示を聴く気になるものだと思います。

なので、自分の「話す」ことを受け入れてもらうためにも「傾聴」は必要なのです。

「聴く」ことで生まれる安心感と信頼

頭では理解していても、「聴くこと」が難しいことには様々な理由があると思います。

・忙しさなどで相手が話し終えるまで待てない
・いざとなっても、何をどう聴けば良いのかわからない
・何か言わないと無責任な気がする

などなど。

これらは、話す内容の解決を重視するために起こる気持ちかもしれません。

しかし、相談や悩みなどは話す相手の中でもまとまっていない場合があります。

本当の問題になっていることと、話す内容が実は違うなどです。

自分と相手では、同じ物事でも感じ方や受け取り方が違います。

無意識で行ってしまう心理的安全性を壊す行為が、まさにこの時に「そんなことで」と思ったことを口に出したり態度に出すことです。

相手の感じるように感じて聴く「傾聴」を行えば、相手の感じている事、物事の受け取り方を理解しようと務めることになります。

そうすると、「聴く」姿勢が話の内容を理解することもそうですが、その内容から相手を理解しようとする態度へ自然と変わります。

その姿勢が、実際に話しを聴くことにつながり、相手は「話をちゃんと聞いてくれた」と感じるのです。

嬉しいとか楽しいといった感情的な話ではなく、「話をしても良いんだ」という安心感が生まれ。

共に考え、関係を築き、環境を作るための信頼関係の土台を築けるようになります。

これを積み重ねることで、心理的安全性が生まれるとともに。

自分自身の伝えたいことが伝わりやすくなり、問題が起きたときにも協力して解決に向かう関係性を築くことができるのです。

「話す」ことだけに集中すると、こうは行きません。

どんなに良い関係だったとしても、話した事以上の結果を期待することは難しいでしょう。

また、アサーティブな対応として自分の話したことに責任を持つことを考えると。

話したことに対する行動を自分自身が実際に継続して行わなければ、信用を得ることが難しくもあります。

言行一致や率先垂範というのは必要な要素ですが、相手のことを理解しない一方的なものとして行う場合は二段階のコストが必要で、かなりの時間がかかります。

これを解決する一つの手段が、相手からの自発的な協力を得ることで。

そのためには自発的な言動をしても大丈夫という安心感と、それを受け入れてくれるという信用が必要であり。

そのきっかけが「傾聴」となるのです。

心理的安全性についてはこちらの記事をどうぞ!

カウンセラーから学ぶ

以上が「傾聴」の内容と効果です。

カウンセラーは様々な悩みや問題を抱える人が、本人の力で解決に向かう手助けをするためにこの技術を基本的なものとして身につけています。

そのような「聴く」専門家であるカウンセラーに求められる態度が、

①無条件の肯定的配慮
➾カウンセリングの枠の中で、カウンセラーの個人的な見解を置いておき、クライエント自身を肯定的に関心を持ち、話を聴き、受け入れる。

②共感的理解
➾クライエントが感じているように感じつつも、自分自身をしっかりと持ち、深い共感を得る。

③自己一致
➾自分の心と身体が一致している、自分自身に誠実な状態を保ち、クライエントの手本になる。

という3つです。

カウンセラーではなくても、安心感を与えたり。

何かあったら相談してみようと思う人が持っている要素だと思います。

自分の事を理解しようとしてくれて、親身になって話を聞いてくれる。

そのうえで、同情や同感するのではなく、自分の状態に合った取り組みやすい提案やアドバイスをしてくれる。

それを、うわべだけでなく心からの態度として示してくれる。

このような態度です。

カウンセラーはこのような態度を持ち、傾聴を実践することで。

相手の話すことではなく、相手がなぜそう感じ考えるのか。

そちらに目を向けてクライエントを理解するとともに。

クライエントが自分自身を理解し、問題の解決に向かうように促します。

そのためには、クライエントが安心して話せる環境と関係を築かなければなりません。

これが、傾聴の効果を高め実践するための態度といえます。

相手を動かすことや、思い通りにすることを考えるのではなく。

相手の意思を尊重し、自発的に協力してもらえるように促す場合にも。

身につけたい態度です。

「聴く」技術

傾聴の考え方や、実行するのに参考となるカウンセラーの態度を知り。

相手の話をじっくり聴くようになったとしても、「聴いている」という反応が相手に伝わらなければ、やはりコミュニケーションとしては成り立ちません。

話している相手は、「本当に聴いていいるのか?」と不安になり、安心感を持つことはできません。

そのため、「聴いている」ことを示せる技術は、傾聴していることを行動で表せる大切な技術です。

4つのかかわり行動

様々な方法がありますが、まずは「マイクロ技法」で上げられているかかわり技法であげられる、かかわり行動です。

①クライエントと視線をあわせる
➾直接アイコンタクトを取るのではなく、上半身全体を見守り、相手の状態を観察する。
➾俯瞰的に見ることで、圧迫感を与えにくくなり話やすさに繋がる

②相手の声のトーンに気を払う
➾心の濃淡やあり様を表すもの。話の内容と共に、どのような感情が動いているかに注意を払う。
➾自分が発声する場合にも、相手に影響を与えるので注意を払う。

③身体言語にも注意を払う
➾「目は口ほどに物を言う」ということわざの通り、話している時の仕草や表情からも相手の感情を読み取ることができる。
➾上半身全体を見るように視線の位置を調整するのも、身体言語を見ることに繋がる。

④言語的追求
➾追求といっても、詰問するのではなく、話しやすい質問を投げかける。
➾相手が話した事を深堀りしたり、相手のがどうしてそう思い感じているのかを明らかにするもの。

この行動は相手の状態や変化を観察するとともに、それに合わせた言動を選ぶことができるため。

話しやすい環境を整えることにつながります。

共感的理解のテクニック

マイクロ技法における基本的かかわり技法の中の、

・はげまし、いいかえ、要約
・感情の反映

は実際に相手の心に寄り添い、傾聴していることを示す行動を表します。

これらは傾聴に必要なテクニックともされています。

◯相槌
相手に関心があり、話を聴いていることを示す事ができる行動です。
頷きや「うんうん」など言葉に出すなど、相手を受け止めていることを示しましょう。
マイクロ技法の「はげまし」に当たり、「話すことをはげます」イメージです。

◯繰り返し
相手の話した気持ちや考え、価値観などを繰り返し、聴いていること示します。
繰り返されることで、相手は自分の話していることを客観的に見れるようになり、お互いに内容を深めることができます。

◯要約
相手の話した内容をまとめ、ポイントをそのまま返します。
話された内容をちゃんと聴いていて、理解しようとしていることを示すことができます。

◯気持ちを汲む
話している状態の相手の感情を、言葉や態度から察知し、それを言葉にして返します。
気持ちを理解し感情を汲み取ろうと積極的に話を聴いていることを示せます。

これらのテクニックを使うことで、「話を聞いてもらえている」「受け入れてもらえている」という感覚を相手に与えることができます。

言行一致の態度が必要なため、聴く側の準備も必要なので、話を聞く時間を設けることも大切です。

また、会話をしているとどうしても相手が沈黙してしまう時があります。

沈黙の時間は苦しいものですが、相手がどう言葉にするか定まっていない可能性もあります。

また、こちらの反応をうかがい、一歩踏み出す勇気を蓄えているかもしれません。

相手の状態を観察しつつ、聴いている姿勢と何を伝えたいのか理解する姿勢を示しながら待つことも大切です。

ここまでが、傾聴の効果を高める基本的な「聴く技術」です。

最後に一つだけ、応用的なものを書いておきます。

ソリューション・フォーカスト・アプローチ

マイクロ技法の中に、「開かれた質問、閉ざされた質問」というものがあります。

私自身が傾聴を学んだ時に少し悩んだのが、「話してもらうきっかけ」でした。

何らかの問題や悩みを抱えるクライエントを相手にするカウンセラーは、じっくりと聞く姿勢を持っていれば良いかもしれませんが。

カウンセラーではない私は「どのようにその状況に持っていけば良いのだろうか?」というように。

その一つの答えが、質問する方法で。

役に立つと思ったのが、ソリューション・フォーカスト・アプローチです。

カウンセラーが質問を投げかけて、クライエントが重要だと思うことに集中し、長所や持っている力を引き出す心理療法とされています。

心理的安全性を整えることや、自発的な協力を得る場合に。

相手の長所や持っている力を引き出し、そのための協力をするということが。

お互いの前向きな解決方法になると考えました。

この療法でも使われるのが、「開かれた質問」です。

最初の関係性を作るときには、返答しやすい「閉ざされた質問」が有効です。

そのやり取りの中で、相手の希望に近い内容に触れた時に「開かれた質問」を行うことで話す環境を用意し、傾聴する。

このようにして、安心感と信頼感を形作って行くことができます。

ソリューション・フォーカスト・アプローチは他にも。

解決できた状態を想像し、それに向かう方法を考えるきっかけとなる「ミラクル・クエスチョン」や。

抱えている問題や悩みの解決に役立ちそうな体験を探す「コーピング・クエスチョン」といった質問法もあり。

傾聴のきっかけにしやすい方法でもあります。

他にも聴くための技術はありますので、調べてみると自分に合ったものが見つかるかもしれません。

聴く力は関係を変えることができる

傾聴は決して受け身なものではありません。

相手に関心を持ち、相手の考えていること・感じていることを理解するとともに、その背景にある相手も築いていないかもしれない価値観や意図も把握できるように務める聴き方です。

そのためには、相手が受け止められている、理解されている、と感じられる行動が必要です。

また、そのような会話をするための関係づくりも必要なので、普段から相手のことを気に掛けることも大切です。

自分の考えを理解してもらうためには、相手のことを理解し。

お互いにとってWin-Winな関係を作り出すことの基本が、傾聴です。

それを人間関係レベルで活かせるのが、アサーションなんだなぁとも感じました。

大きな変化の中でも、人間同士で作る信頼関係というものは変わらず力を持ちます。

そのような関係を気づいていきたいものです。

アサーションについてはこちらの記事をどうぞ!